初代アルシオーネは、やっぱり迷車だった、って噺

初代アルシオーネは、やっぱり迷車だった、って噺
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昔乗っていた車の中で、車そのものの思い出が特に強い車が2台あります。

一台は、ホンダBEAT。

そしてもう一台が、初代スバル・アルシオーネです。

家族との思い出まで含めれば、もっと強い車は他にもありますが、車そのものとなると、この2台はいまでも私の中で同率のベスト1です。

そういえば、ずいぶん昔にもアルシオーネのことを書いた気がするなと、約25年前に作っていた自分のホームページを開いてみたら――。

ありました。

当時の私もしっかり「迷車」と書いていました。

25年経っても、私の評価はあまり変わっていないようです。

目次

見た瞬間から、普通ではなかった

学生時代、新聞に大きく広告が載った初代アルシオーネを見て、

「すごい車が出たなぁ」

と友人と盛り上がったことを覚えています。

低くて、薄くて、とにかく空気を切り裂くことを優先したような形は、どこか航空機を思わせるものでした。

私が乗っていたのは、1.8リッターの水平対向ターボに4WD、3速AT。
初期モデルのVRというグレードでした。

就職後、街角の中古車店で見かけて手に入れたその車は、見た目以上に変わった車でした。

いや、変わっているというより、

開発陣が何をやりたかったのかが、ものすごく分かりやすい車でした。

空力のために車高を低くする。
でも、それでは雪道などで困るから、エアサスで車高を上げられる。
そして高速になると、自動で元の高さへ戻る。

ひとつひとつの理屈は分かります。

でも「やりたかったこと」を全部集めたら、かなり普通ではない車になりました。

乗り込む前から、もう普通ではない

外側のドアハンドルは、ボディ面から大きく飛び出さない形になっていました。
フラップのような部分を指の背で押し込みながら、ドアノブを引きます。

最近の車にもフラットなドアハンドルは見られますが、当時としてはかなり異色だったと思います。

車内からドアを開けるときも、ドアハンドルを手前へ引くのではなく、

上へ引き上げます。

初めて乗る方にドアの開け方を教えるのは、毎度のことでした。

ハンドルまわりも独特で、ライトやワイパーのスイッチがついた箱状のものが、ステアリングの左右へ大きく張り出していました。

さらにハンドルをチルトすると、メーターも左右のスイッチ類も一緒に上下します。

「運転者に合わせて操作系も動かせば使いやすいよね?」

という考えは理解できますが、

「そこまでやるの?」

と思ってしまえるところが好きでした。

雨が降ると、4WDになる

私のVRには、AUTO 4WDという仕組みがありました。

AUTO 4WDを有効にしておくと、ワイパーの動作にも連動して4WDになります。

ワイパーを動かすということは、雨が降っているということだろう。
雨が降っているなら、路面は滑りやすいだろう。
滑りやすいなら、自動で4WDにしよう。

なるほど。

理屈としては、とてもよく分かります。
素晴らしい配慮です。

一度、雨の中を路面の凸凹がかなりひどいコーナーへ入ったことがあります。

前輪が跳ねる。
後輪が押してくる。
思ったように曲がらない……。

「あれ? 曲がれない?」

本気で焦りました。

あの感覚が4WDの仕組みによるものだったのか、私の車の状態によるものだったのかは、今となっては分かりません。

ただ、

私のアルシオーネは、跳ねると曲がらなかった。

そこだけは、よく覚えています。

夜の山道で肝を冷やす

ライトの操作も一般的なものではありませんでした。

初期型は、レバーを前後してHi-Loを切り替える普通の方式ではなく、独立したボタン式でした。

ある夜、あまり走り慣れていない山道を走っていて、先がよく見えなかったために、ハイビームに切り替えようとしました。

ところがスイッチの押し込みが甘かったのか、ハイビームのボタンとともにロービームのボタンも元に戻り、リトラクタブルヘッドライトが、

ウィーン。

と収納され始めました。

夜の山道です。

「ちょっ、まっ! やめて?」

急ブレーキを踏んだのは、言うまでもありません。

これが正常な動作だったのか、私の個体特有の症状だったのか、今となっては確認できません。

でも25年前の自分のホームページにも、同じ話が書いてありました。

どうやら歳とともに記憶の中で大げさになったわけでもなかったようです。

ワイパーまで一筋縄ではいかない

初期型は、空力を考えた一本ワイパーでした。

ところが私の車では、運転席側をあまり丁寧に拭いてくれませんでした。

25年前のホームページにも同じことを書いていて、当時は「輸出仕様と同じ向きだから」と思っていたようですが、今回そこまでは確認できませんでした。

ただ、

「もう少しちゃんと拭いてくれよ!」

と思っていたのは事実です。

ワイパーが動くと4WDにしてくれるのに、肝心のワイパーは右下前方を拭き残す。

なかなか味のある車でした。

カー用品店でも悩む

受難――好きで乗っていたわけですが――は、カー用品店へ行っても続きます。

スキーキャリアを付けようとして、車種別の適合表を見る。

アルシオーネがありません。

結局、スカイラインのハードトップ用だったかの取り付け金具を使って固定していました。

ホイールも同じで、欲しいデザインのものがあってもPCDの関係で合わず、結局は特注しました。

フォグランプの取り付けにも苦労しました。

正確には、ドライブランプとフォグランプをヘッドライトのHI/Lowと連動して切り替えられるタイプでしたが、ショップでは、

「カプラーの適合車種一覧に載ってない」

と早々に断られました。

説明書を見たところ、切り替え用のリレーを既存のカプラーへ入れるだけらしいので、フォグランプ本体の取り付けだけお願いして、配線は自分でやることにしました。

ところが、肝心のカプラーが見当たりません。

「じゃあ、バルブのすぐ後ろで信号を取ればいいか」

と思ったら、今度はリトラクタブルヘッドライトで、ライトそのものが動くために、配線の取り回しに苦労することになりました。

輸入車なら、こういう苦労もあるのかもしれません。

でもアルシオーネって一応、

国産なんですよ。

国産。

「この車に合うものを買おう」ではなく、

「この車に付くものはどれだろう」

から始まることが多い車でした。

でも今思い返すと、仕事が終わってから、あるいは休みの日に、配線を追って、考えて、別の方法を試す。

そういう苦労が楽しかった。

お金も時間も体力もたくさん費やしましたが、全部ひっくるめてのホビーでした。

トランクも、ちゃんと変

スペアタイヤの置き場所も普通ではありませんでした。

スペアタイヤはトランクの中。

これは今では普通のことです。

ただしスペアタイヤが設置されていたのは、床下でも、タイヤハウスの脇でもなく、

トランクの奥深く、かなりいい位置に斜めに吊ってありました。

カタログにはトランクスルー機能があると書いてありますが、その開口部をふさぐように設置されているスペアタイヤ。

「トランクスルーとは?」

と首をかしげることになりました。

さらに、私の車は純正カセットの再生速度が微妙におかしかったため、当時流行っていた十連装CDチェンジャーを積むことにしたのですが、

トランクにはスペアタイヤが鎮座しています。

タイヤを取り出すことも考えなければならないので、チェンジャーの置き場所にも悩みました。

何かを付けようとするたびに考えさせられる。

実に手のかかる、楽しい車でした。

これ、なんて車?

私が買ったアルシオーネは、前のオーナーが車体を真っ黒に塗っていました。

もともと未来的な形な上に、純正のホイールカバーまで黒く塗られていたので、一見すると『ナイトライダー』のKITTのようにも見えました。

ある夜、アルシオーネでコンビニに立ち寄った際、立ち読みコーナーにいた女性が、私の車を見ながら、小さな声で隣にいた男性と会話しているのが聞こえてきました。

「ねぇ、あの黒いの、なんて車?」

すると男性が、

「プレリュード……じゃなくて、外車かなぁ? 国産なら大抵わかるんだけど」

心の中で、

国産です。

とつぶやいていました。

まあ、カー用品店の適合表にもなかなか載っていないレアな珍車でしたけどね。

空力はいい。でも燃費は悪い

初代アルシオーネは、空力性能をかなり意識して作られた車でした。

あの形を見れば、空気抵抗を減らそうとしていたことは十分伝わってきます。

だったら燃費も結構いいのかというと、まったくそんなことはありませんでした。

1.8リッターターボ。
4WD。
そして3速AT。

実燃費より良好であるように書かれるカタログの燃費ですら、約10km/l 

実際に乗っていた感想としては、かなり厳しい燃費でした。

風は切り裂いていたはずなのですが……。

憧れの2.7リッター

中古で買ったアルシオーネでしたが、いろいろと手を加えたにもかかわらず、どうもあまり素性の良い個体ではなかったらしく、半年ほどで乗り換えを検討することになりました。

憧れだった上級グレード、2.7リッターの水平対向6気筒を積んだVXに乗り換えようかな、という気持ちもありました。

スバルのお膝元、群馬の友人からは、

「こっちなら中古のアルシオーネだって、選び放題だよ!」

とも言われ、かなり迷いました。

でも、私の住んでいる地域では、スバルの純正部品を頼んでも、届くまで一週間ほどかかることもあり、

また2.7リッターとなれば税金的にも、燃費的にも今より厳しくなるだろうな、という心配もありました。

憧れと財布が、同じ方向を向いてくれず、

結局、アルシオーネを乗り継ぐ道を選ぶことはありませんでした。

普通の車に乗って、びっくりした

アルシオーネの売却を考えていた頃、マツダのファミリアに試乗しました。

驚きました。

すごく普通なんです。

本当に普通。

ドアの開け方
ライトの操作
ワイパースイッチ
エアコン操作パネルの場所

どれもこれも、当たり前の場所に、当たり前の形で存在していました。

今までの車での経験で、何も考えずに操作できる。

きっと車としては、こっちの方が正しいのかもしれません。

そのとき初めて、

「アルシオーネって、本当に普通じゃなかったんだな」

と実感したような気がします。

その後、私はしばらくHONDA派となり、やがてBEATに出会うことになりますが、それは、また別の噺で。

変だったから、今でも覚えている

アルシオーネには、

「なんでこうした?」

と思うところが、いくらでもありました。

でも、

「空力のため」
「操作しやすくするため」
「雨なら4WDの方がいいだろう」

という開発者の思いが見える車でもありました。

ひとつひとつには理由があるけど、全部を本気でやったら普通じゃなくなった。

そんな車でした。

私はたぶん、そつなくまとまった製品より、何かを優先した結果、別の何かを少し犠牲にしているものの方が好きなんだと思います。

性能のために見た目を少し犠牲にする。
逆に、美しさのために多少の実用性を諦める。
必要な機能ならボタンだらけでもいい。

どうやら、何を大事にして作ったのかが、はっきり見える製品に、食指が動くようです。

アルシオーネの不便だったところも、変だったところも、仕事帰りに配線と格闘した時間も、

夜の山道で「ちょっ、まっ! やめて?」となったところまで、

全部ひっくるめて、忘れられない車でした。

初代アルシオーネは、やっぱり迷車だった、って、そんな噺です。

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この記事を書いた人

デジタルのことや神社のこと、趣味や日々の中で気になったことを書いています。自分自身の記録も兼ねたICT310の管理人です。

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