平成4年、1992年ごろ、WordとExcelを買うために秋葉原へ行きました。
当時、Excelは98,000円。
Wordは58,000円。
一太郎Ver.4も58,000円。
どれも高価だった時代です。
「少しでも安く買いたい。じゃあ、秋葉原かな?」
往復の交通費を考えても安く買える場所、私にとって秋葉原は、そういう街でした。
ソフトウェアなのに、重い
当時はどこの店が最安値で売っているか、なんてネットで調べられる時代ではなかったので、店をめぐり値段を確認し、必要ならメモを取ってまた次の店に。
これを繰り返した結果、一番安いと思えたLAOXのザ・コンピュータ館でWordとExcelを一緒に買いました。
当時は、ソフトウェアも棚に並んでいました。
画面の中で一覧から選ぶのではなく、店まで足を運び、箱を手に取って、裏側の動作環境を確認する。
自分のパソコンのCPUやメモリ、OSを覚えておかないと、
「これ、うちのパソコンで動くんだっけ?」
となり、最悪の場合、帰宅してから詰んでしまうことになります。
だから、売り場で箱をひっくり返して細かい文字を読むところまでが、買い物でした。
そして、ようやく買ったWordとExcel……。
重い(物理的に)。
当時のWordとExcelには、たくさんのフロッピーディスクと、分厚いマニュアルが同梱されていました。
そのパッケージが重いのなんの。
今ならダウンロードして、認証作業をすれば完了。
便利な世の中になったものです。
買い物そのものが遊びだった
でも、秋葉原で面白かったのは、欲しいものを安く買うことだけではありませんでした。
小さな店を覗く。
パーツを見る。
ケーブルを見る。
何に使うのかよく分からないものを見る。
それだけで楽しめました。
ビルの一階に、駐車場のような空間をそのまま店にしたようなところもあり、そこに乱雑に並べられたジャンク品が売られていることもありました。
動くかどうかは分からないけど、とりあえずかなり安い。
「まあ、この値段なら」
と買って帰る。
動く!
「お、ラッキー!」
動かない……。
「まあ、ジャンクだからね。そんなもんだよ……。」
今では考えられないような買い物の仕方かもしれませんが、秋葉原では、買い物そのものが遊びだったんだと思います。
気がついたら「アキバ」になっていた
もちろんそれからも、秋葉原には何度も行きました。
電気の街から、パソコンの街に変わり、自作PCやガジェットの街へ。
ところが、2000年代に入り、街の雰囲気が大きく変わっていきました。
『電車男』が話題になり、「アキバ系」という言葉をよく聞くようになりました。
ヨドバシAkibaができて、AKB48劇場もでき、UDXもできました。
その一方で、小さなパーツ店が少しずつ姿を消していき、2007年には、LAOX ザ・コンピュータ館も閉店しました。
どれか一つの日を境に、というわけでもなく、気がついたら、私が歩いていた秋葉原とは、少し違う街になっていました。
メイド喫茶とアニメの街になったことが嫌だったとか、そういう話でもありません。
「秋葉原」が「アキバ」になったころ、
「なんとなく居心地が……。」
そんな感覚がありました。
ところが、リナカフェには行っている
じゃあ、すっかり秋葉原には行かなくなったのかというとそんなこともなく、「リナカフェ」にも行っていました。
正式名は「Linux Cafe Di PRONTO 秋葉原店」。
当時としては珍しく、AC電源(コンセント)を使わせてもらえるカフェで、当時付き合いのあったブロガーたちとそこでオフ会もしました。
ノートパソコンを広げる。
誰かが変わった端末を持ってくる。
「それ、何?」
「ちょっと触らせて」
私もW-ZERO3 [es]やAdvanced/W-ZERO3 [es]なんて端末を持っていました。
PHSなのにWindows Mobileが動く。
本体をスライドすると、QWERTYキーボードが出てくる。
そんなものをみんなで見せ合って、
「おお、いいねえ」
と喜んでいる。
……。
よく考えたら、私たちもたいがいですね。
秋葉原と私が、同じ方向へ歩いていた
考えてみれば、秋葉原にオタクが突然現れたわけではないんですよね。
昔から、何かが好きで仕方がない人たちが集まる街でした。
電子工作
無線
オーディオ
パソコン
自作PC
ガジェット
普通の人には何に使うのか分からないものを見つけて、
「おお、これがあった」
と喜ぶ。
私も、その一人だったわけです。
ただ、街の中で目立つ「好きなもの」が変わった。
そして私自身の興味と、秋葉原の向かう方向が、少しずつ違っていった。
だから、
「秋葉原がオタクの街になってしまった」
ではないのでしょう。
秋葉原と私が、同じ方向へ歩いていた時代が終わった。
たぶん、それくらいのことなんだと思います。
今では、WordやExcelを買うために秋葉原へ行く必要もないし、大きな箱を抱えて帰ることもない。
動くかどうか分からないジャンクを買わなくても、ネットを探せば大抵のものは見つかります。
圧倒的に便利になりました。
それでも「秋葉原」と聞くと、今でも思い出します。
店から店へ歩いて。
値段を比べて。
ときには値切って。
怪しいものを見つけて。
大きな箱を抱えて帰る。
秋葉原が変わったのか、集まる人が変わったのか、私が歳を取っただけなのか。
たぶん、全部なんでしょうね。
ただ一つ分かったのは、
「アキバはオタクの街になったなあ」
なんて思っていた私は、最初からそっち側だったようです。
秋葉原が「アキバ」になったころ、って、そんな噺です。
