妻が中学生になったころに買ってもらったという、毛玉取り器がありました。
メーカーはナショナル。
乾電池を2本入れてスイッチを入れると、中の刃が勢いよく回るという、実にシンプルな構造です。

液晶表示もありません。
バッテリー残量も表示されません。
強さの切り替えもありません。
スイッチも、昔ながらのパチンと手応えのある機械式です。
ずいぶん長いこと現役で働いてくれていたのですが、先日、とうとうモーターが動かなくなりました。
考えてみれば、40年近くもの間、わが家の服の手入れをしてくれたことになります。
刃が回るだけというシンプルさ
古い毛玉取り器をあらためて見ると、本当に単純な機械です。
乾電池を入れる。
スイッチを入れる。
モーターが回る。
刃が回って、毛玉を取る。
便利な付加機能は何ひとつ付いていません。でも、そのシンプルさも、これほど長持ちした理由のひとつだったのかもしれません。少なくとも、使っている側から見れば、壊れそうなところがとても少ない機械でした。
充電用の電子回路もなければ、残量を示す液晶パネルもない。外部サービスにつながることもなければ、ソフトウェアのアップデートとも無縁です。
毛玉ができた服に当てれば、ただ無心に毛玉を刈り取ってくれる。
40年前から今に至るまで、人間が毛玉取り器にお願いしたい仕事は、最初からずっと同じでした。
40年後の毛玉取り器を買った
さすがに動かなくなってしまったので、新しいものへ買い替えることにしました。
びっくりするほど安価な海外製品もたくさん並んでいましたが、選んだのはPanasonicの毛玉クリーナーでした。
ナショナルという懐かしいブランド名がPanasonicへ変わり、まさしく40年後の後継機へバトンタッチしたというわけです。
今度は乾電池ではなく、USB充電式。
ガードの高さや強さも3段階で調整できます。
昔のものに比べればずっと洗練されて高機能になりましたが、実際にやっていること、道具として求められている本質はまったく同じです。
刃を回して、毛玉を取る。
なんだか、そこがとても面白いなと思いました。
古くても、仕事が変わらなければ使える
40年ほど前の車が、今でも街を元気に走っていることがあります。
もちろん、オーナーの手で大切に整備されているのでしょう。「壊れなかった」というよりは、「壊れても直せる構造だった」のかもしれません。
一方でパソコンの世界は、機械自体が壊れていなくても、OSのサポートが切れたり、接続する通信規格が変わったりして使えなくなってしまいます。スマートフォンも、アプリやクラウド側の仕様変更で、ある日突然役目を終えることがあります。
でも、毛玉は40年前も今も、ただの毛玉です。
毛玉取りには新しい通信規格も、定期的なアップデートも必要ありません。だからこそ、40年ものあいだ現役でいられたのでしょう。
そういえば、私もあまり変わっていない
40年前と今とで、私自身が使っている道具もずいぶん変わりました。
ポケットコンピューターでちまちまとプログラムを入力し、
5インチフロッピーディスクの単価の高さにため息をつき、
シンセサイザーのシーケンサーに、一音ずつ曲を打ち込んでいたあの頃。
今では机の上に高性能なPCやスマホが並び、当たり前のようにAIと会話し、Webサイトの仕組みを動かしています。
けれど、
「これ、もう少し便利にできないかな?」
と思い立って機械をいじり倒し、思った通りに動いた瞬間、一人でニヤリと喜ぶ。
やっていることは、驚くほど変わっていません。
毛玉取り器は40年経って、USB充電式になりました。
私の相棒は40年経って、AIになりました。
道具はずいぶんスマートに進化したはずなのに、私のやってることは、ちっとも変わっていないようです。
まあ、私の精神年齢が40年で進化しているかどうかは、かなり怪しいところですが……。
40年たっても、やってることは同じ、って、そんな噺です。
